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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(あ)529号 判決 1971年11月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人津田玄児の上告趣意第一点について。

所論の前段は、憲法三一条違反をいうが、その内容とするところは、原審がなんら事実調を行なわず記録調査だけによつて控訴趣意の各主張を斥け被告人の控訴を棄却したのは不当であるというのであつて、実質において単なる審理不尽の違法をいうに帰するものであるから、適法な上告理由にあたらない。また、所論の後段は、憲法一四条ならびに三一条違反をいうのであるが、その実質は、本件における被告人の窃盗犯行が常習としてなされたものと認定されたことについての非難であつて、事実誤認ないし単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない。

同上告趣意第二点について。

所論は判例違反をいうので、検討するに、所論引用の仙台高等裁判所昭和三六年三月一六日判決(下級裁判所刑事裁判例集三巻三・四合併号二〇四頁)は、盗犯等の防止及び処分に関する法律(以下盗犯等防止法という)二条二号にいう「二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ」の解釈適用につき、「右にいわゆる共同とは、共謀者中二人以上の者が現場において、窃盗の実行行為に出た以上、他の者は現にその実行行為をしない場合をも含むけれども、少くとも共謀者中二人は各自その実行行為を分担することを要するものと解すべきである。したがつて、被告人両名が共謀のうえ洋品店等において衣類等を窃盗した場合であつても、被告人中一名が右窃盗をなすに際し、他の者がその幕となる等の所為に出たにすぎず、被告人ら各自が現に窃盗の実行行為を分担したものでないときは、前記法条の規定する常習特殊窃盗の罪が成立しない」旨の判断を示しているものである。これに対し、本件原判決は、右仙台高裁判決の判示前段、すなわち「共同シテ犯シタルトキ」とは少なくとも二人以上の者が実行行為を分担することを必要とするとの点については、これと同じ見解をとるとしながら、「いわゆる集団万引窃盗といえる態様の犯行にあつては、たとえ財物に直接手を触れこれを若干移動させるという意味の実行行為を担当遂行する者が単独であつても、見張りをする者もしくは幕となる者或はリレー式に持ち出す者と共に犯罪を実現したと認められる以上、見張りも幕も持ち出しも窃盗の実行行為の分担にほかならないと解する」と判示し、甲が直接万引の衝に当り、乙又は丙が甲の傍で風呂敷をひろげて品物を受取りこれを店外に駐車して待ち構えている被告人のもとに持ち出し、その間に丁が見張りあるいは店員の視線を遮ぎるために幕の役割を分担したという本件については、二人以上現場において共同して犯したというになんの妨げもないとの判断を示して、前記法条の規定する常習特殊窃盗の罪の成立を認めているのである。

右の両判決を対比すると、前記仙台高裁判決の説示する「幕となる等の所為」が具体的にいかなるものであるか必らずしも明らかではないが、その所為が本件原判決の説示する幕と同じ内容のものであるとするならば、右仙台高裁判決が、幕となることは窃盗の実行行為の分担ではないとして常習特殊窃盗の成立を否定すべき理由としているのに対し、原判決は、同種事案につき幕も窃盗の実行行為の分担にほかならないとして同罪の成立を認めているのであるから、両者は見解を異にするものであり、従つて、原判決は右仙台高裁判決と相反する判断をしたものといわなければならない。

よつて案ずるに、いわゆる集団万引の犯行において、本件のように、直接の万引行為をなす者が一人であつて、他の者が見張り、あるいは幕、持ち出しなどと呼ばれる役割を担当したにとどまる場合に、盗犯等防止法二条二号の適用があるかどうかの点に関する当裁判所の見解は以下説示するとおりである。

すなわち、同条は、特殊の犯罪手口を用いる習癖のある強盗又は窃盗の常習者を特に重く処罰しようとする趣旨の規定であるが、そのうち同条二号が「二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ」と規定しているのは、集団のすり、万引、または強盗など二人以上の者によつて犯罪の現場において共同して強盗又は窃盗の犯行がなされる場合、その犯行は組織的、集団的かつ大規模であることが多く、これによる被害もしたがつて甚大なものとなりやすいのに対し、その取締り、検挙は容易ではなく、犯人の悪性も通常の単独犯に比してより強いとみるべきであるから、以上の諸点にかんがみこれらを常習とする者を特に重く処罰すべきものとしたものと解される。ところで、集団万引においては、直接に財物の占有奪取行為をなす者のほか、本件原判決の判示するような見張り、幕、持出し等の役割を分担する者など数名の者の犯行現場における協力行為によつて、迅速、確実に犯行の実現がはかられる点にその特殊性があるということができる。まして、右の見張り、幕、持ち出し等は、直接の占有奪取行為者の行為と相まつて、財物の占有取得を完成させるための不可分の共同行為であつて、全体として一個の窃盗行為を組成するものと評価すべきものと考える。それであるから、原判決の判示するような集団万引の場合についても、二人以上現場において共同して窃盗の犯行をなしたものとして、同条二号の適用があるといわなければならない。もし、直接の占有奪取行為が二人以上の者の共同によつてなされた場合にのみ同条二号の適用があるものと解するならば、窃盗に関するかぎり同条同号の適用される範囲が極めて狭少なものとなり、右規定のもうけられた前述の趣旨は全く没却されることにもなるであろう。

以上判示したところによれば、原判決の判断のうち、本件犯行について盗犯等防止法二条二号を適用すべきものとした結論は相当であるから、これを維持すべきである。所論引用の仙台高裁昭和三六年三月一六日判決は、原判決に牴触すると解されるかぎりにおいてこれを変更すべきものと認める。従つて、弁護人の所論は原判決破棄の理由となり得ない。

よつて、刑訴法四一〇条二項、四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(村上朝一 色川幸太郎 岡原昌男 小川信雄)

弁護人の上告趣意

第一、<略>

第二、判例違反

控訴審でも主張したとおり、仙台高等裁判所第二刑事部昭和三六年三月一六日判決(下級裁判所刑事裁判例集三巻三、四合併号二〇四頁以下)は、「少くとも共謀者中二人は各自その実行行為を分担することを要する」のであり、「被告人中一名が右窃盗をなすに際し、他の者がその幕となる等の所為に出たにすぎ」ない場合は、二人以上現場に於て共同したとはいえないとしているのであり、原判決も認めるとおり、原判決は、この判決と異る判断を下している。

この点については、最高裁の判例は存在せず、右引用判例が唯一の裁判例であるところ、原審は、これと異る判断を下したのである。

しかも、引用判例は、控訴趣意指摘のとおり、立法時から、広く適用するのは避けたいとされてきた、盗犯防止法二条二号の沿革にのつとつたものであり、それを理由も示さずにしりぞけた原審判断は誤つているといわざるを得ない。

原判決は「(被告人の行為は)必ずしも窃盗の実行行為そのものとは認められないが、刑法第六〇条の適用により女達の共同実行にかかる常習特殊窃盗の犯行の共同正犯の刑責を免れないと解すべきであるから――原判決が被告人についてのみならず原審相被告人らを含む全員につき刑法第六〇条を適用したのは失当であるとしても――被告人についてはこの点の法令の適用の誤りもないというべきである」としているが、控訴趣意は、まさに「現場に於て共同して」行つたという構成要件該当の事実が存在しないのに盗犯防止法を適用した誤を問題としているのであり刑法六〇条だけを問題としているのではない。

よつて、前記のとおり、現場に於て共同してを狭く解する以上原審判決はこれを忠実に守つた引用判例に違反したというべく破棄をまぬがれない。

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